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いい街だった。
閑静でありながら人は暖かく、何一つ不自由などなかったはずだった。
車も家もお金も、食事も衣服も支援も、すべて手にしていたはずなのに、何一つ楽しくなかった。日に日に瞳が霞んでいくようで、私は私が怖かった。
日差しの強いお昼過ぎ、バスに揺られながら何を考えたのだろうか。私は何を考えているのだろうか。
ほんとは何もしたくないし、何も考えられない。今朝は目覚ましを止めること以外はできなくて、静かに時間が過ぎていくのを感じた。
安らぎも、楽しみも見当たらなくて、自分が良くない状況にあることだけ理解していた。
私が回復したら、いつかきっと回復したら、もう二度とこんな気持ちになりたくないと思うはずだ。
バスの窓から、工事現場のショベルカーが動くのを見た。マスクもしないで、土埃の中働く人間をみた。私の家にはマスクがあって、お店には無くて、それが何かの縮図のような、暗示みたいだと思うと気持ちが悪かった。
私の言葉は浮かんではすぐに消えてしまうから、繰り返し、繰り返し忘れないように書き留めなければいけない。
振り返って、この地獄の問題を突き止めて、繰り返さぬように対策を立てるためには、記録が必要なのだ。